『その節は・・』
 
 市役所の応接室に菓子折をもってやってくる杉本。先日、すぐやる課の龍之介にピンチを救ってもらったお礼である。二人は、はからずも巻き込まれてしまった大事件の思いで話を話し始める。杉本の三階建てのマンションが、地下鉄工事の影響で丸ごと水没してしまい、その中から命からがら大脱出した・・

 一度、大スペクタクルをやってみようとは思っていました。私が演劇を見始めた1980年代には、なにもない舞台で、言葉を駆使し、体を駆使し、そこにないものを、あるように見せることで成り立っている芝居が数多くありました。「なにもないことは、なんでもあるということだ」というのが当時の合い言葉でもありました。さんざん、そういう演劇を見てきたわけですから、私の中にひきだしはたくさんあります。『メトロ』の他の話は日常的な会話だけで、場面転換も移動もありませんが、この作品は逆に「なんでもありだったら、なにをする」というところからスタートしたものです。


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